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春の庭(+ゲスト小説) トマ人

かばた先生から頂いた小説を追記しています。

描いているときに思い出していたのはこちらの小説のしゃぶちゃんです🥰🥰🥰
とってもかわいいしゃぶちゃんです😇😇😇

百個目の目狩り儀式の後日話|大喜
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18305383

直接場面を描いているわけではないのですが、読ませていただいて刻み込まれている印象を具象化したという感じです。
いつもながら、かばた先生にはかなり影響を受けています🥰🥰🥰


かばた先生に最高な小説を書いていただきました!!!!🤯🤯🤯
掲載許可をいただきましたので、どうぞご覧ください🥳🥳🥳
▼▼▼

好きな人が出来たら、その人とずっと一緒にいたいと願っていた。

 その言葉を聞いた神里綾人は、何を犠牲にしてもずっと一緒に居たいだなんて言い様は余りにも子供のようで微笑ましくて優しくて笑ってしまった。
彼がそうなってしまった要因は、綾人からすれば容易に想像できてしまうからこそ心の底から嬉しくて有り難くて代え難いという気持ちも嘘ではない。
 白い花弁が風に舞い上がっては、粉雪のように音もなくはらはらと落ちていく。
春風に攫われたそれが水の上に落ちて、寄り添うように連なって流れるのを綾人は一瞥してから顔を上げる。
彼の金糸のような髪が風に尾を靡かせると、澄み渡る青の中で太陽の光を受けて煌めいた。
「どうだろうか」
「いま、すごく頭が混乱しているので暫しお待ちください」
 困ったような表情をしたトーマが繋いだ手に力を入れた。
その様子に大丈夫だよと安心させるつもりで、同じように彼の手を握り返す。
君はきっとまだ私のために子供で居てくれている。
大人になったら、沢山の選択肢の中から自分で選ばなければいけない。
それを焦がれると言う言葉にしてそっと仕舞っては、ここに居てくれるんだろう。
だからこの言葉を口にするきっかけを探す度に、君がまだ決めかねているからと少しだけ時期を伸ばしてしまった。

“旅人がトーマをモンドへ連れて行きたいと言っていたんだ。せっかくだから休暇を取って、一度里帰りしてみるのはどうだろうか”

 やっと口に出来た言葉も誰かの助けを借りたものだ。
それで良い。
トーマも綾人も、勿論綾華も誰かの何かの手を借りて前に踏み出す。
それが当たり前で、君たちが私にくれたものだ。
君が子供でいてくれるのは、友達である私を子供でいさせてくれようとしたからだろう。
そう綾人は結論の出ているものを、もう一度だけ心の中で反芻した。
いままで色々なものを手離してきた二人のために出来る事は、ただ献身に応えるだけではない。
もう自分は失うことを怖がって泣く、無力な子供ではなくなってしまった。
二人が怖がっているうちは手を繋いでいてあげよう。
そう思う事も綾人の中では嘘ではなかった。
「私は君の中で答えが決まったらで構わないよ」
 先日神里家を訪れた旅人が、彼と離島へ行った際の話しをしてくれた。
それから幾ら経っても休暇を取る気のなさそうなトーマに対して、わざわざ綾人に相談しに来たという訳だ。
「君が焦がれているものは私への裏切りではないし、手を離してもそれはこの絆を断ち切る事ではないから……」
 綾人の言葉に彼が表情を隠すようにうなだれて、視線を足元へ向けた。
「君が納得出来たらそれで構わないと思っていたけど、ちょっと強引だったかな」
「強引ですよ。若はいつも強引で勝手で優しくなさるので、俺の方が足踏みしてるのを突きつけないでください、……落ち込みます」
 彼の視線につられるようにして水面の方に目をやれば、流れの穏やか淵沿いの水の上に白い花弁が帯となって連なっては、そこに止まる事なくひらひらと一枚二枚と広い場所へ向かって空の青を反射したその先へと旅立っていく。
「ごめん、ね」
 ただただその人の幸せを願う、そんな相手がいる事が本当に嬉しい。
血の繋がった家族でもなく、恋人でもなく、友達でいられず、近くて遠くて、家族のように近しく許されて愛した。
愛している。
それ以外の言葉では表現できない、暖かな感情がこの胸を満たして溢れていた。
「私がトーマにしてあげられる事は何でもしてあげたい。家族だから君が大切だから、私はきっとそういう我儘な男なんだ」
「家族でいよう、そう俺に言ってくださいましたね」
「うん」
 手を引くような彼の合図に、もう一度トーマの方へ視線を戻す。
「俺がモンドに焦がれていても帰らないのは意地みたいなもので、本当に子供っぽいとは分かっているんですが……」
「それが君の矜持だと、私もそう理解しているよ」
 戸惑いの中に喜びと寂しさのようなものを滲ませた、椿の春先の葉とよく似た色をした彼の瞳が綾人を見た。
それに応えるように自分が笑ったのだと、驚いた様子の相手の反応から自覚する。
「だけど私は君が考えているよりも随分とお節介なんだ。時間は有限だから、少しだけ私が君の背を押してもいいだろう」
 息をのんだ彼が少しだけ沈黙し、言葉を選ぶようにしてから息を吐き出す。
「いえ、自分があまりにも幼稚なので反省していたところです」
「トーマは大人だよ、少なくとも私をずっと助けてくれる君の存在は頼れる家族だからね」
「あーもー、わかりました」
 綾人と繋いだままの手に、もう片方も重ねるようにした彼が身を屈ませて自身の額にそれをあてた。
ひんやりとしたトーマの額当ての金属の感触が、グローブ越しの指先に触れる。
「若、お手を失礼します」
「うん」
「繋いでいてくださるんですよね」
「構わないよ」
「じゃあ、もう少しだけお願いします。決心できたら離すので……」
「たとえ、君が手を離しても……」
「例え、手を離しても若は俺の大切な人です。それにかわりはありません」
 震える声は真剣に彼が何かの折り合いをつけようとしている証拠だ。
「わかってはいるんですがね」
「こういう荒療治は早い方が良いかなと思って」
「本当にいきなりなので驚きました」
 そう、例え手を離してもなくならない。
君が何を選んでも大切な事にかわりはない。
幸せの形が違っても、君の幸せを喜ぶ事にかわりはない。
そう言ってしまうと気にするだろうから、これだけは伝えないでおこうと、綾人は言葉をのみ込んでトーマが手を離してくれるのを待った。
「俺は……」
「君の気持ちは分かっているつもりだよ」
「でしょうね。だけど言わせてください、俺の全てが神里家にあります。それはかわりません、絶対に」
「うん、どうもありがとう」
 最初にそれを綾人へ教えてくれたのは彼だ。
その気持ちが本物だと知っている。
顔を上げたトーマが綾人を真っ直ぐに見詰めては、決意を口にした。
「では、いってきます」
 そう言って、綾人の手を離した彼の背中をトンッと押す。
手を繋いでも良い、離しても良い、もう一度繋ぎ直しても……たとえそうで無かったとしても、この絆は断ち切られたりはしないから大丈夫だと心の中で呟く。
思ったよりも力が入ってしまった自分に苦笑して、綾人はトーマの背中を見つめていた。
 父親があの日、自分を寝室に呼んだ時の気持ちは、もしかしたらこんな感情だったのかも知れない。それが分かった事が嬉しい。
嬉しいばかりだった。
 一際強い春風を受けて、桜が天へと舞い上がる。祝福の紙吹雪のようなそれを眺めては、綾人は手の届かない場所へ走っていく彼への福音を感じながら、そっと愛しい者の幸せを祈っていた。

 好きな人が出来たら、その人とずっと一緒にいたいと願っていた。
それ以上の幸せを君が、君たちが教えてくれたから、だから私も君に応えよう。
そうある事がいつしか神里綾人の誇りになっていた。

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原神
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